「新自由主義サイクル」の下、迷走する現代日本の問題の起源を徹底解明

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「もうひとつの失われた10年」を超えて
タイトル
サブタイトル
原点としてのラテン・アメリカ
著者・編者・訳者
佐野誠著
発行年月日
2009年 2月 10日
定価
3,410円
ISBN
ISBN978-4-7948-0791-5 
判型
A5判上製
頁数
304ページ

著者・編者・訳者紹介

著者-佐野誠(さの・まこと)
1960年生まれ。
新潟大学経済学部教授(開発経済学、進化経済学)。博士(経済学)。
主な著作に『開発のレギュラシオン』(新評論)、
『ラテン・アメリカは警告する』(新評論;共編著)、
現代経済学』(岩波書店;共編著)、
Beyond Market-Driven Development(Routledge;共著)などがある。

内 容

 ワーキングプア、非正規雇用、貧困、格差社会…そこに襲いかかるアメリカ発の国際金融危機…かつてない喪失感と閉塞感―。この国はいま、1990年代の「失われた10年」に続く「もうひとつの失われた10年」を経過しつつある。
 この混迷を招いたのは1980年代以来の経済自由化、規制緩和、「小さな政府」の推進、つまり今日にいう構造改革であり、それが引き起こした社会経済危機に対する急場しのぎの補正政策である。日本のこうした問題状況、そして「貧困大国」の実相がいまや広く知られるようになったアメリカの現在の混迷もまた、その究極の原点は1970年代半ば以降のラテン・アメリカに求められる、と筆者はみている。
 こう述べると訝る読者もあろう。しかし南米のチリは1973年、隣国のアルゼンチンは1976年、世界初となる新自由主義の経済改革に着手している。これはサッチャー、レーガン、中曽根の諸政権による同様の試みに数年から10年近く先んじている。そしてその結果は、国際的にもよく知られた1980年代の元祖「失われた10年」であった。アルゼンチンは1990年代にもより徹底した構造改革を断行し、通貨・金融危機や大量失業など「もうひとつの失われた10年」(同国の経済学者フレンケルの表現)に陥った。フジモリ政権下のペルーなど他の国々もこうした流れに追随し、大同小異の悲劇を産み落としている。
 本書はまず、この新自由主義の「悪夢のサイクル」(内橋克人)の原点をグローバルな視点から検証し直し、日本や中国などアジア諸国の「ラテン・アメリカ化」のリスクに改めて警鐘を鳴らしている。さらにラテン・アメリカにおける近年の「左傾化」のうごきやポスト新自由主義への試行錯誤、また主流の新古典派経済学に対抗するラテン・アメリカ生まれの構造派の考え方など、一連の代替案にも考察を加えている。これらを導きの糸として私たち自身の「もうひとつの失われた10年」をどう乗り超えるか。本書の刊行を機に、読者とともに考えていきたいと願っている。

ワーキングプア、非正規雇用、貧困、格差社会。
そこに襲いかかる国際金融危機。かつてない喪失感と閉塞感…。
日本はいま、1990年代の「失われた10年」に続く
「もうひとつの失われた10年」を確実に経過しつつある。
この悲劇を招いた1980年代以来の構造改革と急場しのぎの補正政策、
そしてそれらが引き起こす政治的景気循環「新自由主義サイクル」。
その原点はサッチャリズムでもレーガノミクスでもなく、
1970年代以降のラテン・アメリカにあった。
まやかしの「サイクル」から抜け出し
希望の色」(ディエゴ・トーレス)を口ずさむには何をなすべきか?
世上をにぎわす「ラテン・アメリカの左傾化」をどうみるべきか?
構造改革の理論的基礎・新古典派に対抗する経済学とは?
問題の起源と展開を理論と実証の両面から検証し直し、
私たちが今日置かれている状況を
根底から批判的にとらえ返すためのグローバルな視座を開示する!


『もうひとつの失われた10年-原点としてのラテン・アメリカ』目次
[目次PDF]


読者への道案内

第Ⅰ部「ラテン・アメリカ化」のリスク

第1章 「失われた10年」を超えて―ラテン・アメリカの教訓

はじめに
1 3つの「失われた10年」
コラム  金融自由化とアルゼンチン債問題
2 忘れ去られた本来の構造問題
3 新自由主義改革の補正とその限界
おわりに:進歩的な社会経済改革と共生経済の調合に向けて
■2008年のエピローグ

第2章 中国はラテン・アジアとなるのか?
―「ブラジルの奇跡」から考える

はじめに
1 所得分配と経済成長
2 「ブラジルの奇跡」:不平等化、構造変化、高度成長
コラム  ベリンジアの寓話〜「経済成長率」に潜む価値判断
3 中国:東アジアのベリンジアか?
おわりに
■2008年のエピローグ

第Ⅱ部 構造改革は何をもたらしたか

第3章 新自由主義改革、大量失業、雇用政策
―1990年代のアルゼンチン

はじめに
1 大量失業経済への大転換
2 新自由主義改革
3 雇用関係の柔軟化―労働改革と「日本化」
4 雇用政策とその限界
おわりに アリアンサ連合政権―「第3の道」は可能か
コラム  2001 年末「アルゼンチン危機」に何を学ぶか
コラム  地域通貨は万能薬か
■2008年のエピローグ

第4章 グローバリゼーションと小零細企業
―フジモリ政権下のペルーの経験

はじめに
1 ヤミ小零細企業をめぐる見方:1980年代まで
2 マクロ政治経済環境:ポピュリズムから新自由主義改革へ
コラム  ラテン・アメリカのオランダ病〜日本への示唆
3 改革後の小零細企業
おわりに
■2008年のエピローグ

第Ⅲ部 新自由主義の理論―批判と対案

第5章 開発パラダイムの比較分析

はじめに
コラム  社会自由主義国家
1 中進工業経済の概念的なマクロ・モデル
2 ポピュリズムの調整レジーム
3 新自由主義の調整レジーム
4 「社会自由主義」の調整レジーム
コラム  プレビッシュと「社会自由主義」
おわりに
■2008年のエピローグ

第6章 IMFモデルの原理的批判

はじめに―IMF病の伝染:ラテン・アメリカからアジアへ
1 開発における新古典派総合?
2 標準的なIMFモデル
3 批判と改革の方向性
コラム  トービン税は有効か
おわりに―「正しい特殊感覚」の復権に向けて
■2008年のエピローグ

第7 章 雇用柔軟化の理論と現実

はじめに
1 歴史的背景
2 雇用柔軟化の理論的基礎
3 理論と現実の照合:実質賃金と失業率の相関
4 新古典派労働市場理論の問題点と今後の課題
コラム ラテン・アメリカの左傾化とニュー・ケインジアン
〜チリからパラグアイへ
結びに代えて―文献案内
■2008年のエピローグ

第8章 経済自由化と通貨・金融危機―異端派はどうみたか

はじめに
1 資本流入の負の実物的効果
2 FNサイクル:通貨・金融危機の動態
コラム 日本のバブル経済にみるラテン・アメリカ的側面
おわりに
■2008年のエピローグ

参考文献

好評既刊書

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