稀代の悪党はなぜヒーローとなったのか? 膨大な史料から盗賊=英雄の虚実を炙り出し、民衆文化の機制を読み解く。

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タイトル
英雄の表徴
サブタイトル
大盗賊カルトゥーシュと民衆文化
著者・編者・訳者
蔵持不三也著
発行年月日
2011年 6月 23日
定価
9,180円
ISBN
ISBN978-4-7948-0860-8 
判型
A5判上製
頁数
708ページ

著者・編者・訳者紹介

著者-蔵持不三也(くらもち・ふみや)-
1946年栃木県今市市生。早稲田大学人間科学学術院教授。フランス民族学・歴史人類学専攻。
著書『シャルラタン』、『ペストの文化誌』(朝日新聞社)、『エコ・イマジネール』(監修・言叢社)、E.ル・ロワ・ラデュリ『南仏ロマンの謝肉祭』(訳)ほか、編著・訳書多数。

内 容

 1721年11月28日の夕刻、セーヌ川に沿った、そして生家から指呼の間に位置するグレーヴ広場(現市庁舎前広場)で、ひとりの男が27歳の若い命を世にも残酷な車刑* に散らした。この男こそ、18世紀前葉のパリで、400人近い一味の頭領として跳梁跋扈した稀代の大盗賊、ルイ=ドミニク・カルトゥーシュである。時あたかも、スコットランド出身のシャルラタン** 的財政家ジョン・ローが、摂政オルレアン公の信を得て、太陽王ルイ14世後の破綻した国家財政を救うべく、国立銀行の紙幣とインド会社の株券を自在に操って演出したバブル経済の真っ只中。カルトゥーシュとその一味にとって、めぼしい「カモ」はいくらでもいた。こうしてカルトゥーシュは一味を率いて悪事のかぎりを尽くし、彼をモデルとしたモーリス・ルブランの「怪盗ルパン」よろしく、警吏たちの必死の探索を煙に巻いて、パリ中を恐怖の奈落へと突き落とした。殺人、傷害、窃盗、空き巣狙い…。およそ善行とは程遠い極悪人が英雄になる。この表徴の転位には、仲間の裏切りによって逮捕され、シャトレ監獄に入牢の身となりながら、自らを主人公とする、そして彼自身が演技指導を行った(!) カルトゥーシュ劇に加えて、「史実」をうたった一連のカルトゥーシュ物語、さらにはこの呪われたヒーローのイメージを社会批判の手段に用いた風刺文学などが決定的な役割を果たした。本書はそうした民衆文化の諧謔を、当時のパリの社会情勢や風俗、司法・警察制度などを見据えつつ、膨大な一次史料(裁判記録や供述書など)や同時代文献を駆使して明らかにする。体制的な英雄とは埒外のところで、民衆はなぜ彼ら独自の英雄を必要としたのか、彼らにとっての英雄とは何か。こうした英雄待望と創出のメトドロジーに、民衆文化のメカニズムを求める。本書の意図は過不足なくここにある。
(著者 蔵持 不三也)

* 車刑:ギロチン以前の極刑。鋼鉄製の車輪に囚人を縛りつけ、鉄梃子で全身を打ち砕く。
** シャルラタン:近代フランスにおいて、客寄せの芸人たちを引き連れ、祝祭や大市を舞台に巧みな向上で怪しげな薬を売り回った「いかさま医者」や「いかさま薬売り」。転じていかさま師的な人物をも指す。

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